家族信託シリーズ第2回:親の認知症対策としての家族信託
---この記事では、親の認知症対策として家族信託を活用する方法について解説します。---
親が認知症になったときに生じる財産管理の問題や、家族信託と成年後見制度の違い、そして早めに備えることの大切さがわかります。
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認知症になると資産がどうなる? 財産管理が困難になる理由とリスク
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家族信託とは何か? 認知症対策としての仕組みとメリット
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成年後見制度との違い:それぞれの特徴と家族信託を選ぶメリット
親が認知症になると財産管理はどうなる?
高齢の親が認知症になって判断能力が低下すると、銀行口座の管理や不動産の売却など 財産管理 が思うようにできなくなります。
本人が契約や手続きを行えないため、家族であっても勝手に預貯金を動かしたり資産を処分したりできず、いわゆる「資産が凍結される」状態になってしまいます。
こうした場合に備えて利用されるのが成年後見制度ですが、この制度では家庭裁判所を通じて後見人を選任し、本人に代わって財産管理を行います。
後見人には親族が選ばれることもありますが、場合によっては第三者の専門家(弁護士や司法書士など)が選ばれることもあります。
後見人は裁判所の監督下で財産を管理し、毎年その収支を報告する義務があります。
成年後見制度を利用すれば、認知症の親の財産管理は一応可能になります。しかし、後見人が付くと本人の財産処分は非常に制約されます。
例えば、親名義の不動産を売却したり、生前贈与をしたりするには後見人だけでなく裁判所の許可も必要です。
家族が「親のためによかれ」と思う資産の活用や相続税対策(生前贈与など)も、後見開始後は実質的に難しくなってしまいます。
つまり、認知症発症後に後見制度に頼ると、思うような財産活用ができなくなるリスクが高いのです。
家族信託とは?認知症対策としての仕組み
そこで注目されているのが 家族信託 です。家族信託とは、家族間で財産を預けて管理・運用してもらう仕組みのことです。
例えば、認知症対策としては、親御さん(財産を持つ人)が元気なうちに、自分の財産を信頼できる家族(子どもなど)に託して管理してもらう契約を結びます。
信託契約を結ぶと、預けられた財産の名義は受託者(財産を管理する家族)に移りますが、その財産は信託の目的に沿って親のために使われます。
親御さんは引き続き受益者として財産から利益を受け取ることができ、必要な費用を子どもに管理してもらえるのです。
家族信託のメリットは、親の判断能力が低下した後でもスムーズに財産を管理・処分できる点にあります。
信託によって受託者に権限を与えておけば、たとえ親が認知症になっても、不動産の売却や介護費用の捻出などを子どもが柔軟に行えます。
成年後見制度のように都度裁判所の許可を得る必要もなく、親の生活や介護のために資産を有効活用できるのが大きな利点です。
さらに家族信託では、親が亡くなった後の資産承継先も指定しておくことができます。
たとえば「親が亡くなったら信託財産を配偶者や子どもに引き継ぐ」と信託契約に定めておけば、遺言書のような役割も果たします。
これにより、認知症対策と同時に将来的な相続対策にもなり、一石二鳥の制度と言えるでしょう。
家族信託と成年後見制度の違い
成年後見制度と家族信託の大きな違いは、事前対策か事後対策かという点です。
成年後見制度は認知症などで判断能力が失われた「後」で家庭裁判所に申し立てて利用する制度ですが、
家族信託は本人が元気で意思判断ができるうちに「前もって」準備する制度です。
この違いが、財産管理の自由度に大きく影響します。以下に主な違いをまとめます。
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手続きの違い:成年後見は裁判所での手続きが必要で、後見人の選任や定期報告など煩雑です。一方、家族信託は家族間の契約によって成立し、公証役場での公正証書作成などは必要ですが、裁判所の関与は原則ありません。
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財産処分の自由度:後見人制度では、資産の処分や運用には慎重な制限があります【たとえば、不動産売却には裁判所の許可が必要】。家族信託では、信託契約で定めた範囲内で受託者が判断して資産を動かせるため、状況に応じた柔軟な資産活用が可能です。
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費用や負担:成年後見では専門家が後見人になる場合、報酬が発生し毎年の報告事務も伴います。家族信託でも契約書作成に専門家のサポートを依頼すれば費用はかかりますが、信託が始まってからの継続的な報告義務はありません。
こうした違いから、親の財産管理を家族の裁量で行いたい場合は家族信託の方が適していると言えます。
ただし、家族信託は親が十分な判断能力を有する間にしか契約できません。認知症がかなり進行してしまった後では、もはや信託契約を結ぶことはできず、後見制度に頼らざるを得なくなってしまいます。
家族信託を検討する際のポイント
家族信託を活用するには早めの準備が肝心です。 親に認知症の兆候が出る前から、家族で話し合って対策を立てておくことをおすすめします。
信託契約の内容(誰を受託者にするか、どの財産を信託するか、将来の受益者を誰にするか等)を家族でしっかり決める必要がありますので、専門家に相談しながら進めると安心です。
契約内容によっては税金や他の相続対策との関係も出てきますので、総合的に検討することも重要です。
しかし一度仕組みを整えておけば、親御さんが認知症になった後もスムーズに財産管理ができ、親の生活や介護に必要なお金を滞りなく使えるようになります。
結果として、ご家族にとって経済的・精神的な負担の軽減につながるでしょう。
まとめ:認知症対策は「今」がタイミング
親の認知症による財産管理の問題に備えるには、家族信託という方法が有効であることを見てきました。
成年後見制度と比べて事前の手間はありますが、その分、実際に認知症になった際には柔軟で円滑な財産管理が可能になります。
大切なのは「元気なうちに備える」ことです。親御さんやご自身の将来に不安がある方は、ぜひ早めに家族信託の活用を検討してみてください。
認知症になってからではできない対策だからこそ、今のうちに準備を進めておくことが家族の安心につながります。


