家族信託シリーズ第3回:障害のある子どものための家族信託

    2025年10月31日
    • 生前相続のご準備

    〖現在の状況〗

    ◆ 家族構成:父、母、長男、二男(障害あり)

    〖ご家族の悩み〗

    すでに二男の判断能力が低下した状態で、父が遺言書を遺さずに死亡した場合、遺された相続人たちはどうなるのか?

    何の対策もしなかった場合、方法は以下の2つに限られる。

    ① 二男に成年後見人を付けて、選任された成年後見人が二男の代わりに遺産分割協議に参加する。
    ※ 但し、法定後見制度の利用となり、二男が死亡するまで毎月3~6万円の後見人報酬が発生する。

    ② 法定相続分で遺産分割をする。
    ※ 法定後見の場合、二男の法定相続分を確保しなければなりません。。

    〖解決策〗

    上記の①②にならないように「受益者連続型信託」の応用パターンを活用する。

    〖設計プラン方針〗

    経済的負担や柔軟性が乏しい成年後見制度の利用を回避しつつ、障害がある二男の生活を確保する。

    〖プラン内容〗

    ・ 委託者 / 財産を託す人:父
    ・ 受益者 / 利益を受ける人:父
    ・ 受託者 / 財産を託される人:長男

    父に相続が発生した後、ここで信託を終了させずに(通常は委託者兼受益者が死亡すれば信託終了)、「①父の持つ受益権、②委託者としての地位」を二男に相続させる。

    結果、障害があり、すでに意思能力を失っている二男が、父が組成した「家族信託の流れに後から乗ることができる」というもの。

    二男は信託メリットを享受することができ、長男は引き続き「二男のために」財産管理をする。

    ※ 通常、すでに意思能力を失っている二男が信託契約の当事者にはなれないが、組成した契約当事者の「父の受益権」と「委託者としての地位」を相続させられれば、二男も委託者兼受託者になれる。

    家族信託シリーズ第2回:親の認知症対策としての家族信託

    2025年10月28日
    • 生前相続のご準備

    ---この記事では、親の認知症対策として家族信託を活用する方法について解説します。---

    親が認知症になったときに生じる財産管理の問題や、家族信託と成年後見制度の違い、そして早めに備えることの大切さがわかります。

    • 認知症になると資産がどうなる? 財産管理が困難になる理由とリスク

    • 家族信託とは何か? 認知症対策としての仕組みとメリット

    • 成年後見制度との違い:それぞれの特徴と家族信託を選ぶメリット

    親が認知症になると財産管理はどうなる?

    高齢の親が認知症になって判断能力が低下すると、銀行口座の管理や不動産の売却など 財産管理 が思うようにできなくなります。

    本人が契約や手続きを行えないため、家族であっても勝手に預貯金を動かしたり資産を処分したりできず、いわゆる「資産が凍結される」状態になってしまいます。

    こうした場合に備えて利用されるのが成年後見制度ですが、この制度では家庭裁判所を通じて後見人を選任し、本人に代わって財産管理を行います。

    後見人には親族が選ばれることもありますが、場合によっては第三者の専門家(弁護士や司法書士など)が選ばれることもあります。

    後見人は裁判所の監督下で財産を管理し、毎年その収支を報告する義務があります。

    成年後見制度を利用すれば、認知症の親の財産管理は一応可能になります。しかし、後見人が付くと本人の財産処分は非常に制約されます

    例えば、親名義の不動産を売却したり、生前贈与をしたりするには後見人だけでなく裁判所の許可も必要です。

    家族が「親のためによかれ」と思う資産の活用や相続税対策(生前贈与など)も、後見開始後は実質的に難しくなってしまいます。

    つまり、認知症発症後に後見制度に頼ると、思うような財産活用ができなくなるリスクが高いのです。

    家族信託とは?認知症対策としての仕組み

    そこで注目されているのが 家族信託 です。家族信託とは、家族間で財産を預けて管理・運用してもらう仕組みのことです。

    例えば、認知症対策としては、親御さん(財産を持つ人)が元気なうちに、自分の財産を信頼できる家族(子どもなど)に託して管理してもらう契約を結びます。

    信託契約を結ぶと、預けられた財産の名義は受託者(財産を管理する家族)に移りますが、その財産は信託の目的に沿って親のために使われます。

    親御さんは引き続き受益者として財産から利益を受け取ることができ、必要な費用を子どもに管理してもらえるのです。

    家族信託のメリットは、親の判断能力が低下した後でもスムーズに財産を管理・処分できる点にあります。

    信託によって受託者に権限を与えておけば、たとえ親が認知症になっても、不動産の売却や介護費用の捻出などを子どもが柔軟に行えます。

    成年後見制度のように都度裁判所の許可を得る必要もなく、親の生活や介護のために資産を有効活用できるのが大きな利点です。

    さらに家族信託では、親が亡くなった後の資産承継先も指定しておくことができます。

    たとえば「親が亡くなったら信託財産を配偶者や子どもに引き継ぐ」と信託契約に定めておけば、遺言書のような役割も果たします。

    これにより、認知症対策と同時に将来的な相続対策にもなり、一石二鳥の制度と言えるでしょう。

    家族信託と成年後見制度の違い

    成年後見制度と家族信託の大きな違いは、事前対策か事後対策かという点です。

    成年後見制度は認知症などで判断能力が失われた「後」で家庭裁判所に申し立てて利用する制度ですが、

    家族信託は本人が元気で意思判断ができるうちに「前もって」準備する制度です。

    この違いが、財産管理の自由度に大きく影響します。以下に主な違いをまとめます。

    • 手続きの違い:成年後見は裁判所での手続きが必要で、後見人の選任や定期報告など煩雑です。一方、家族信託は家族間の契約によって成立し、公証役場での公正証書作成などは必要ですが、裁判所の関与は原則ありません。

    • 財産処分の自由度:後見人制度では、資産の処分や運用には慎重な制限があります【たとえば、不動産売却には裁判所の許可が必要】。家族信託では、信託契約で定めた範囲内で受託者が判断して資産を動かせるため、状況に応じた柔軟な資産活用が可能です。

    • 費用や負担:成年後見では専門家が後見人になる場合、報酬が発生し毎年の報告事務も伴います。家族信託でも契約書作成に専門家のサポートを依頼すれば費用はかかりますが、信託が始まってからの継続的な報告義務はありません。

    こうした違いから、親の財産管理を家族の裁量で行いたい場合は家族信託の方が適していると言えます。

    ただし、家族信託は親が十分な判断能力を有する間にしか契約できません。認知症がかなり進行してしまった後では、もはや信託契約を結ぶことはできず、後見制度に頼らざるを得なくなってしまいます。

    家族信託を検討する際のポイント

    家族信託を活用するには早めの準備が肝心です。 親に認知症の兆候が出る前から、家族で話し合って対策を立てておくことをおすすめします。

    信託契約の内容(誰を受託者にするか、どの財産を信託するか、将来の受益者を誰にするか等)を家族でしっかり決める必要がありますので、専門家に相談しながら進めると安心です。

    契約内容によっては税金や他の相続対策との関係も出てきますので、総合的に検討することも重要です。

    しかし一度仕組みを整えておけば、親御さんが認知症になった後もスムーズに財産管理ができ、親の生活や介護に必要なお金を滞りなく使えるようになります。

    結果として、ご家族にとって経済的・精神的な負担の軽減につながるでしょう。

    まとめ:認知症対策は「今」がタイミング

    親の認知症による財産管理の問題に備えるには、家族信託という方法が有効であることを見てきました。

    成年後見制度と比べて事前の手間はありますが、その分、実際に認知症になった際には柔軟で円滑な財産管理が可能になります。

    大切なのは「元気なうちに備える」ことです。親御さんやご自身の将来に不安がある方は、ぜひ早めに家族信託の活用を検討してみてください。

    認知症になってからではできない対策だからこそ、今のうちに準備を進めておくことが家族の安心につながります。

    【連載:家族信託について】第1回:相続対策としての家族信託

    2025年10月11日
    • 生前相続のご準備

    はじめに

    親の高齢化が進む中、「もしもの時」に備えた相続対策がますます重要になっています。

    近年注目を集めているのが 「家族信託」 という仕組みです。

    家族信託とは、信頼できる家族に自分の財産の管理や処分を託し、あらかじめ決めた目的に沿って運用・承継してもらう制度のことです。

    例えば、「親の判断能力が低下した後も子どもが代わりに財産を管理できるようにしたい」

    「自分が亡くなった後、配偶者に財産を残し、その配偶者が亡くなった後は子どもに引き継ぎたい」といった希望を叶えることができます。

    本記事(第1回)では、相続対策として家族信託がなぜ注目されているのか、その基本的な仕組みや従来の遺言との違い、具体的な活用の流れ、

    そして地域(茅ヶ崎・寒川)の高齢化事情をふまえたニーズや司法書士に依頼するメリットについて、初心者の方にもわかりやすく解説します。

     

    なぜ家族信託が相続対策として注目されているのか

    超高齢社会の日本では、認知症などで判断能力が低下する高齢者の増加や、相続をめぐる家族間トラブルが社会問題となっています。

    茅ヶ崎市では高齢化率が約27%と4人に1人以上が65歳以上という状況で、寒川町も同程度の高齢者割合(今後30%超とも予想)となっており、親世代の財産管理や相続の備えは地域でも大きな関心事です。

    こうした背景から、家族信託は「生前にできる相続対策」として注目されています。

    従来、親の財産承継には遺言書を用意するケースが一般的でしたが、遺言はあくまで「亡くなった後」に効力を発揮するものです。

    そのため、親が存命中に認知症になった場合には遺言書では財産を動かせず、預貯金の引き出しや不動産の処分ができなくなってしまいます(いわゆる「資産の凍結」状態)。

    家族信託を利用すれば、親が元気なうちに信頼できる子どもを受託者(財産を管理する人)に指定し、将来親の判断能力が低下しても子どもが代わりに財産管理・処分できるよう準備しておくことができます。

    これは成年後見制度に比べて柔軟で、家族の意思に沿った資産管理ができるため、認知症対策としても有効です。

    また、家族信託は相続の争い防止にも寄与します。信託した財産は法律上「受託者名義の信託財産」となるため、委託者(親)が亡くなっても遺産分割協議の対象になりません。

    遺言書があっても相続人間で話し合いが必要な場合がありますが、家族信託であらかじめ財産の承継先を定めておけば、指定された受益者にスムーズに財産を引き継ぐことができます。

    親御さんとしても「自分の死後、子どもたちに余計な手間や揉め事をかけたくない」というニーズがあり、家族信託はその安心材料となります。

     

    遺言との違いと相続税対策との関係

    家族信託と遺言の主な違いを整理してみましょう。

    効力の発生時期: 遺言は本人死亡後に効力を発揮しますが、家族信託は契約を結んだ時点(生前)から効力があります。

    =つまり生前から財産管理・承継の仕組みを動かせる点が大きな違いです。

    判断能力低下への対応: 遺言では本人が認知症などで判断能力が低下してしまうと新たに作成・変更できません。

    一方、家族信託は本人が元気なうちに契約しておけば、判断能力低下後もその契約に沿って財産管理が継続されます(後見人を立てる手間も減らせます)。

    二次相続の指定: 遺言は基本的に亡くなった時点で誰に遺産を渡すかまでしか決められません。例えば「自分が亡くなったら配偶者へ」という指定までです。

    その配偶者が亡くなった後の承継先(次の世代)までは遺言では指定できません。これに対し家族信託なら、「自分 → 配偶者 → 子ども」といった二段構えの承継先まで生前に決めておくことが可能です。

    このように家族信託には遺言の機能も含まれており、二次相続以降の資産承継までコントロールできる点が大きな特徴です。

    財産承継の手続き: 家族信託では信託財産が遺産分割協議不要で受益者に引き継がれます。

    遺言があっても遺留分(法律上保障された最低限の取り分)を侵害する内容の場合、相続人から異議を唱えられる可能性がありますが、家族信託でも遺留分請求は行使され得るので、その点の配慮は必要です。

    とはいえ、信託した財産自体は遺言よりも確実に指定受益者へ渡せるため、相続手続きを簡便にする効果があります。

    相続税対策との関係性についても触れておきます。家族信託を利用すると名義が受託者(子どもなど)に移るため、「節税になるのでは?」と思われるかもしれません。

    しかし結論から言えば、家族信託自体が直接的な相続税の節税対策になるわけではありません。

    信託を組成しただけでは相続税評価額が下がったり税負担が軽減されたりする効果は基本的にありません。

    たとえば親が受益者(財産から利益を受ける人)である家族信託の場合、親が亡くなれば結局その時点で信託財産は相続税の課税対象となります。

    とはいえ、家族信託には間接的に有利な点もあります。

    契約の形態によっては贈与税や不動産取得税が生じない形で財産を動かせる(委託者=受益者とすれば贈与とみなされず、信託登記による不動産名義変更でも不動産取得税は非課税)ため、

    無用な税コストを増やさずに資産承継の準備ができます。

    また、資産が凍結されず計画通り承継できれば、相続発生後に慌てて手続きをしたり財産処分に時間がかかって無駄な費用が発生したりするのを防ぐことができます。

    つまり家族信託は節税というより「円滑な相続」のための制度であり、必要に応じて生命保険や生前贈与など他の相続税対策と組み合わせて活用するのが望ましいでしょう。

     

    家族信託を活用する具体的な流れ

    「家族信託に興味はあるけれど、実際には何をするの?」という方向けに、大まかな手続きの流れを紹介します。

    初めての方でもイメージしやすいよう、ステップごとに整理します。

    ①家族で目的や方針を話し合う
    まずは家族信託を利用する目的を明確にします。

    例えば「認知症対策として資産凍結を防ぎたい」

    「自分(親)が亡くなった後、配偶者が安心して暮らせるようにし、その配偶者の死後は子どもに財産を承継させたい」

    「将来、障がいのある子の生活資金を確保したい」

    「田舎の実家や土地を将来空き家にせず有効活用したい」など、ご家庭によって様々なニーズがあるでしょう。

    親御さん本人と子世代でしっかり話し合い、どんな財産を誰のためにどう管理・承継したいか希望を共有することが第一歩です。

    ②信託契約の内容を設計する
    次に、家族信託の具体的な設計を行います。信託契約では以下のようなポイントを決めます。

    誰が委託者(財産を託す人=通常は親)となり、誰を受託者(財産を管理する人=通常は子ども等)とするか。受益者(財産から利益を受ける人)は誰か。

    信託の目的を明確に定める(例:「委託者の介護費用や生活費に充てるため」「委託者死亡後に配偶者の生活保障をするため」など)。

    どの財産を信託の対象とするか(現金、不動産、有価証券など具体的に決定)。

    受託者にどのような管理・処分権限を与えるか(不動産を売却してよいか、資金をどのように運用するか等の範囲)。

    信託契約の期間や終了事由を定める(例えば「委託者が亡くなったら信託終了」など)。終了後、その財産を最終的に誰に引き継ぐか(残余財産の帰属先)も決めておきます。

    必要に応じて信託監督人や受益者代理人を置く(受託者の行為をチェックする第三者を設けることで不正防止や公平性確保ができます)。

    これらを家族の状況に合わせてオーダーメイドで決めていきます。決める項目が多く難しく感じるかもしれませんが、後述する専門家(司法書士等)に相談すれば適切なプランを提案してもらえます。

    ③信託契約書の作成
    設計した内容をもとに、信託契約書を作成します。

    契約書は法律上必ずしも公正証書にする必要はありませんが、後々のトラブル防止や金融機関での信託専用口座の開設手続きのためにも公正証書で作成することが望ましいです。

    契約書のひな形はインターネット上にもありますが、各家庭の事情に合わせて細かく調整する必要があります。

    条項のミスや抜け漏れがあると意図した効力が得られなくなる可能性もあるため、専門家にチェック・作成してもらうのがおすすめです。

    ④契約の締結(公正証書化)
    内容が固まったら、公証役場で信託契約の公正証書を作成し、契約を正式に締結します。公証人に契約内容を読み上げてもらい、委託者・受託者が署名押印して成立です。

    ここから信託がスタートします。

    不動産がある場合は名義変更登記
    信託財産に不動産が含まれる場合、契約締結後できるだけ早く不動産の信託登記(名義変更)を行います。

    具体的には、委託者から受託者への名義変更を法務局に申請し、登記簿上に「〇〇信託」といった形で信託が設定されたことを明記します。

    この登記をしておくことで、後々第三者にも信託の効力を主張でき、不動産売却時などの手続きもスムーズになります。

    信託専用の銀行口座を開設
    信託財産に預貯金が含まれる場合、受託者は自分の財産と信託財産を分けて管理する義務があります。

    そのため、信託契約にもとづいた信託専用口座(信託口口座)を銀行で開設します。

    口座名義は「委託者〇〇・受託者〇〇・信託口」といった形式になり、受託者が信託財産を管理・運用するための専用口座です。

    最近は信託口口座に対応する金融機関も増えていますが、万一難しい場合は銀行に相談し、通常の受託者名義口座を信託専用として扱う方法もあります。

     

    以上が基本的な流れです。

    契約成立後は、受託者(子ども)が契約内容に従って親の財産を管理・運用します。

    必要に応じて不動産を売却して介護費用に充てたり、信託専用口座から親の施設利用料を支払ったりしていきます。

    信託期間が終了(例えば親が亡くなった時)したら、契約で定めた受益者や残余財産受取人に財産を引き継いで完了です。

     

    茅ヶ崎・寒川地域の高齢化事情と家族信託の具体的ニーズ

    茅ヶ崎市や寒川町といった地域では、高齢者の割合が高く、今後も一人暮らしの高齢者や認知症患者の増加が見込まれます。

    そうした地域事情をふまえると、家族信託には次のような具体的ニーズがあります。

    認知症による資産凍結の防止: 親が認知症を発症すると、銀行口座の凍結や不動産の売却が自由にできなくなり、介護費用の捻出や資産処分が滞る恐れがあります。

    茅ヶ崎・寒川エリアでも、高齢の親を抱える子世代にとって「いざという時に備えたい」という声は多く、家族信託で早めに資産管理のバトンタッチをしておくことに大きなメリットがあります。

    空き家対策・実家の処分: 親が介護施設に入ったり亡くなったりして実家が空き家になるケースが増えています。

    この地域でも空き家問題は深刻化しつつあり、放置すれば固定資産税の負担や防犯・景観上の問題も生じます。

    家族信託を活用しておけば、受託者である子どもがタイミングを見て実家を売却したり賃貸に出したりと柔軟に処分・活用できます。

    信託契約で売却益の使途(親の介護費や維持管理費など)も定められるため、親の生活を支えつつ資産を有効活用することが可能です。

    二次相続への備え: 茅ヶ崎や寒川には長年地域に住み続けるご夫婦も多く、「自宅や土地を自分たちの死後は子どもに確実に残したい」という希望もよく聞かれます。

    特に子ども世代が複数いる場合、誰が実家を引き継ぐか、他の子には代わりに何を渡すかなどを巡って揉めるリスクもあります。

    家族信託であれば、配偶者が亡くなった後の承継先(長男に不動産、次男に預金…など)まで明記できるため、将来の相続争いを未然に防ぎ、公平な分割を実現しやすくなります。

    親の想いの実現: 高齢化が進む地域では、介護や障がいを抱える家族の話題も避けられません。

    「亡くなった後も障がいのある娘の生活を保障したい」「孫の代まで学費の一部を援助したい」といった親御さんの想いを叶える手段としても、家族信託は活用されています。

    このようなケースでは信託契約に給付の条件や期間を定め、親亡き後も受託者が定期的に支援を行う仕組みにすることが可能です。

    以上のように、茅ヶ崎・寒川といった高齢者の多い地域では、家族信託が「備えあれば憂いなし」の安心策として具体的な効果を発揮します。

    子世代にとっても、親の財産について早めに話し合っておくきっかけとなり、いざという時に慌てずに済むという利点があります。

     

    おわりに

    家族信託は、親世代・子世代双方にとって新しい相続対策の選択肢として広がりつつあります。

    従来の遺言や成年後見制度では対応しきれなかった課題に柔軟に対処でき、財産の管理・承継を家族の希望通りにデザインできる点が大きな魅力です。

    一方で、制度が新しく専門知識も要するため、メリット・デメリットを正しく理解した上で進めることが大切です。

     

    この記事では相続対策としての家族信託の概要を解説しました。最後までお読みいただきありがとうございます。

    次回(第2回)は「認知症リスクに備える家族信託」をテーマに、認知症対策として家族信託を活用するポイントを詳しく紹介します。

    親御さんの将来に不安を感じている方は、ぜひ引き続きご覧ください。備えを万全にして、安心できる相続・財産管理を実現していきましょう。

    茅ヶ崎・寒川・平塚・藤沢エリアの相続トラブルと認知症対策

    2025年9月4日
    • 生前相続のご準備

    湘南地域では高齢化が進み、認知症の親を介護する家族も増えています

    認知症が原因で起こりがちな相続トラブル

    茅ヶ崎市や寒川町、平塚市、藤沢市といった湘南エリアは高齢化率が高く、令和8年には寒川町で28.5%に達すると予測されています。

    高齢の親が認知症になると、財産管理や相続手続きでさまざまなトラブルが起こりがちです。典型的な例として、以下のようなケースがあります。

     

    【銀行口座の凍結・預金の引き出し困難】

     親の判断能力が低下すると、たとえ実の子どもでも親名義の預金を勝手に引き出すことはできません。

    銀行は本人の判断能力が不十分な場合、詐欺防止のため口座を凍結することもあります。

    その結果、介護費用や生活費を立て替えざるを得なくなり、家族に経済的負担が生じるケースがあります。

     

    【同居家族による財産の使い込み】

     認知症の親と同居している子どもが、親から預かった通帳や現金を無断で使い込んでしまうケースもあります。

    親は信頼して任せていますが、亡くなった後に使い込みが発覚し、他の兄弟姉妹と争いになることがあります。

    こうした事態は親族間の不信感を生み、相続分を巡るトラブルに発展しかねません。

     

    【遺言書が無効になるリスク】

     認知症が進行した親が遺言を書こうとしても、判断能力が失われた状態では法律的に有効な遺言書を作成できません。

    遺言が有効かどうかのカギは「遺言能力」の有無であり、判断力がある状態でないと遺言は無効になってしまいます。

    そのため、「親が遺言を残してくれたと思ったのに、認知症のために効力が認められなかった」という事態も起こり得ます。

    また遺言が無い場合、相続人間で遺産分割協議が必要になりますが、相続人の中に判断能力が不十分な方がいると協議自体が進められません。

    結果的に、遺産分割が滞ったり家庭裁判所での争いに発展する恐れがあります。

     

    事前の備え:任意後見制度・法定後見制度の活用

    こうしたトラブルを防ぐには、親御さんが元気なうちに対策を講じておくことが大切です。

    代表的な対策が「成年後見制度」の活用です。成年後見制度には、ご本人の判断能力の状態によって法定後見制度任意後見制度の2種類があります。

     

    【任意後見制度】

     将来認知症になるなど判断能力が低下した場合に備えて、本人がまだ判断力のしっかりしているうちに、

    分の財産管理や生活支援を任せたい信頼できる人と契約を結んでおく制度です。

    誰にどのような支援をしてもらうか、本人の希望に沿って自由に決めることができます。

    契約内容は公正証書にし、将来本人の判断能力が衰えた時に家庭裁判所の監督のもとで任意後見人による支援がスタートします。

    任意後見契約を結んでおけば、自分が認知症になった後も信頼できる人に財産管理を任せられるので、家族も安心です。

     

    【法定後見制度】

     すでに認知症が進んで判断能力が十分でない場合には、家庭裁判所に申し立てて後見人(または保佐人・補助人)を選任してもらう必要があります。

    選ばれた法定後見人が本人に代わって財産管理や必要な契約手続きを行い、本人を法律的に保護します。

    ただし、法定後見では後見人を家庭裁判所が決定するため、必ずしも親族が選ばれるとは限りません。

    専門職後見人として弁護士や司法書士など家族以外の第三者が選任される可能性も高く、その場合は家族が資産を自由に動かせなくなります。

    また、申立てに費用がかかるほか、選任された後見人には継続的に報酬を支払う必要があります。

    このように手間や費用の面から、現状では法定後見の利用はあまり進んでいないのが実情です。

     

    ➡任意後見契約はあらかじめ備える方法で、法定後見は最終手段ともいえます。

    近年は家族信託(民事信託)など新しい手法も注目されていますが、まずは「判断力があるうちに遺言書や任意後見契約を準備し、万一に備える」ことが肝心です。

    重度の認知症になってからでは遺言書作成や任意後見契約はもはや利用できず、法定後見制度を使うしかなくなってしまいます。

    将来起こり得るリスクに備え、早めに家族で話し合っておきましょう。

     

    遺言書の活用で相続争いを予防

    認知症対策と併せて重要なのが遺言書の作成です。

    特に、自宅で親の介護を担ってきた子どもと、遠方に住む他の子どもたちがいるようなご家庭では、

    親の死後に「誰がどの財産を相続するか」で意見が分かれ、争いになりやすい傾向があります。

    日本の法律では親の介護をしていた子どもに余分な相続分を与える規定はなく(※寄与分が認められる場合も限定的です)、

    長年尽くしてきた長男夫妻と何もしていない弟、といった組み合わせでも法定相続分は原則平等です。

    そのため「自分は親を支えてきたのに報われない」と感じる相続人が出てしまい、紛争に発展することがあります。

    ➡こうした事態を防ぐには、親御さんが遺言書で財産の分け方を指定しておくことが有効です。

    例えば「自宅は介護を担ってくれた長男に相続させる」等の遺言を残せば、他の兄弟も納得しやすくなりますし、

    法定相続分どおりに分ける場合と比べてトラブルを避けやすくなります。

    また遺言書があれば、後に残された相続人たちはわざわざ遺産分割協議を行わずに相続手続きを進めることも可能です。

    遺言があるだけで家庭裁判所の関与を減らし円滑に相続手続きができるため、専門家も「とりあえず遺言を書いておきましょう」とアドバイスします。

    遺言書は公正証書で作成しておけば形式の不備による無効リスクもほぼありません。

    元気なうちに遺言を準備しておくことで、万一認知症が進んだ場合や亡くなった後の相続でも、お子さんたちが揉めずに済む可能性が高まります。

     

    司法書士によるサポート内容

    相続や認知症対策については、専門家である司法書士に相談するのがおすすめです。

    司法書士は相続手続きや成年後見手続きのプロフェッショナルであり、以下のような支援が可能です。

     

    成年後見の申立てサポート:

    親が認知症になり法定後見制度を利用する場合、家庭裁判所への申立書類の作成や手続き代行を司法書士がサポートできます。

    実際、司法書士の業務には家庭裁判所に提出する成年後見開始申立て書類の作成が含まれており、手続きをスムーズに進めるお手伝いが可能です。

    また必要に応じて、親族が後見人候補になるための書類整備や手続きについてもアドバイスしてくれます。

     

    遺言書作成のサポート:

    遺言書を作成する際も司法書士が心強い味方になります。

    遺言の方式や文言には法律上の厳格なルールがあるため、専門家の助言を得ながら作成することが重要です。

    司法書士は依頼者の希望を丁寧にヒアリングし、適切な文面や遺産分割の内容を一緒に考えてくれます。

    公正証書遺言を作成する場合は公証役場との調整も代行可能ですし、自筆証書遺言を書く場合も法改正により法務局での保管制度がありますので、

    その利用も含めてサポートします。

    弊所では、司法書士が遺言執行者に就任し、遺言どおりに財産を引き継ぐ手続きまで担うこともできます。

     

    成年後見人への就任:

    家族に適任者がいない場合や、利害関係の調整が難しい場合には、司法書士が専門職後見人として家庭裁判所に選任されることもあります。

    司法書士は全国で8,000名以上が成年後見業務に携わっており、法律と財産管理の専門知識を活かして被後見人(認知症の方)の利益を守る役割を担っています。

    司法書士が後見人に就任した場合、公平中立な立場で財産を管理し、親族では対応が難しい不動産の売却や施設入所費用の捻出なども適切に判断・実行してくれます。

    弊所でも任意後見人、成年後見人どちらも承っておりますので、お気軽にご相談ください。

     

    地域特有の事情にも配慮を

    茅ヶ崎・寒川・平塚・藤沢地域は温暖で住みやすい反面、人口構成は全国平均より高齢化が進んでいます。

    例えば茅ヶ崎市や藤沢市の空き家率は約9%と全国平均(約13.8%)より低いものの、数千戸規模の空き家が存在しており、

    高齢者の死亡や施設入所に伴う空き家が増加傾向にあります。

    寒川町でも将来的な空き家増加が懸念され、市町村それぞれで空き家バンクの開設や利活用支援策など対策を進めています。

    相続の現場でも「親が亡くなった後、実家が空き家のまま放置されている」「相続人が遠方在住で家の管理ができない」といった相談が珍しくありません。

    司法書士はこうした空き家問題に対しても、相続登記の手続きや売却処分の支援、必要に応じて財産管理人として物件を管理するといった形で関与できます。

    また、このエリアでは親世代と子世代が同居する二世帯住宅も見られます。

    親と同居して介護を尽くした子どもがいる場合、前述のように他の兄弟との間で相続分への不満が生じやすいため、やはり遺言書で明確にしておくことが大切です。

    高齢者のみの世帯や一人暮らし高齢者も増えており、判断能力が低下しても身近に支援者がいないケースも懸念されています。

    地域包括支援センターや専門職と連携し、見守り契約(定期的な安否確認サービス)や財産管理委任契約などを活用することも視野に入れておくと安心でしょう。

     

    まとめ

    湘南地域のように高齢化率の高いエリアでは、認知症による相続トラブルは決して他人事ではありません

    親が元気なうちに遺言書を作成し、必要に応じて任意後見契約を結んでおくことで、将来のリスクに備えることができます。

    もし判断能力が低下してしまっても、法定後見制度を利用すれば財産を守ること自体は可能です。

    しかし手続きの負担や費用もかかりますから、できるだけ事前の対策を講じておくのが理想です。

    湘南エリアで相続や認知症対策に不安がある方は、ぜひ弊所にご相談ください。

    専門家のサポートを得ることで、大切なご家族の財産と円満な相続を守る一助となるでしょう。

    各市町村でも高齢者支援や空き家対策の窓口がありますので、併せて活用しながら安心できる相続準備を進めてください。

    茅ヶ崎・寒川・藤沢の空き家、売却か解体か?

    2025年8月14日
    • 生前相続のご準備

    エリア別:茅ヶ崎市・寒川町・藤沢市の空き家市場動向

    まず、茅ヶ崎市・寒川町・藤沢市の空き家の現状を簡潔に見てみましょう。

    • 茅ヶ崎市:温暖な湘南エリアで人口24万人規模の茅ヶ崎市では、2023年時点で空き家率がおよそ9.16%となっています。全国平均(約13.8%)と比べると低めですが、それでも市内に数千戸の空き家が存在する計算です。市は空き家対策として2024年4月から「茅ヶ崎市空き家バンク」を開設し、所有者と利用希望者をマッチングする制度を始めています。また、空き家売却時の3,000万円特別控除や低未利用土地の譲渡所得控除といった税制優遇制度の周知にも力を入れています。

    • 寒川町:寒川町は人口約4万8千人の町ですが、高齢化に伴い将来的な空き家増加が懸念されています。実際、平成30年(2018年)の調査時点で町内には約1,445件の空き家が確認されており、2023年の空き家率は約7.9%とされています。寒川町は2022年1月に「寒川町空家等対策計画」を策定し、空き家の発生予防・適正管理・利活用の3本柱で総合的な対策を進めています。地域特性として、東京都心へのアクセスは良いものの地価は比較的安く、マイホーム需要はあるため、今のうちに空き家活用や予防策を講じることが重要とされています。

    • 藤沢市:人口43万人超の藤沢市では、空き家率は約9.61%(2023年)と茅ヶ崎市と同程度です。市内には約1000件の管理不十分な空き家があるとの調査結果もあり(2021年時点)、周辺環境への悪影響(庭木の越境、建材飛散、火災・害獣リスク等)も問題視されています。藤沢市は2016年策定の基本方針を見直し、2021年3月に新たな「藤沢市空家等対策計画」を策定しました。この計画では「発生抑制」「適正管理」「利活用」の3方針の下、地域や関係団体と連携して空き家対策を推進しています。具体策として、老朽空き家の除却(解体)費用助成の検討や、所有者不明空き家への財産管理人制度活用、空き家利活用補助金の創設なども盛り込まれています。さらに2025年度からは、空き家を地域の交流拠点などに改修する場合に最大100万円の補助を出す利活用支援制度も開始されています。こうした行政の動きからも、藤沢市が空き家問題解決に力を入れていることが伺えます。

    以上のように、それぞれの地域で空き家は増加傾向にありつつも、市町村ごとに対策が講じられています。

    では、実際に空き家を所有している場合、「売却」と「解体」という二つの選択肢にどのような特徴があるのか、具体的に見てみましょう。

    空き家を売却する場合のポイント

    空き家を売却することは、所有者にとって最もシンプルな処分方法の一つです。不動産市場の動向や物件の状態によりますが、以下のポイントに注意しましょう。

    • 市場動向と物件価値:エリアによって中古住宅市場の相場は異なります。例えば寒川町では、2024年の一戸建て中古住宅の平均取引価格が約2,679万円で、前年より15%も下落しました。立地や周辺環境によっては市場が軟調な場合もあるため、「売り時」を見極めることが重要です。一方、茅ヶ崎市や藤沢市のように人気のエリアでは、駅近や海沿いなど好立地の物件は比較的買い手がつきやすい傾向があります。築古でも土地の価値が高ければ「古家付き土地」として売却できるケースも多いです。実際、築年数が古く汚れや痛みが目立つ家でも専門業者による買取が可能な場合があります。リフォーム無し・現況のままでも買い取ってくれる不動産業者も存在するため、家の状態が悪くても諦めずに相談してみましょう。

    • 築年数と建物の評価:日本では築年数が経過した木造住宅は市場評価が下がり、建物価値がほぼゼロに近いことも珍しくありません。そのため築後30年以上の空き家は、建物としてではなく更地としての土地の価値で取引される傾向があります。買主は購入後に建物を解体して新築することを前提とするケースも多いです。逆に築浅の物件やリフォーム済み物件であれば建物にも値が付く可能性があります。売却前に必要最低限の手入れ(簡易な清掃や庭木の剪定など)を行い印象を良くしておくと、買手の付き方が変わってくる場合もあります。

    • 相続登記の必要性:空き家を売却するには、登記簿上の所有者が正しく自分(または売主)になっていることが大前提です。しかし、親から相続した家を放置していて被相続人(亡くなった親)の名義のままになっているケースが非常に多く見られます。2024年4月1日から相続登記(不動産の相続による名義変更)が義務化されており、相続を知った日から3年以内に手続きをしないと10万円以下の過料(罰金に相当)が科される可能性があります。過去に相続した分も、2027年4月1日までの経過措置期間内に登記を済ませる必要があります。したがって、売却を検討するなら早めに相続登記を完了させることが重要です。相続人が複数いる場合は遺産分割協議書の作成なども必要になるため、司法書士の助言を得ながら進めましょう。

    • 税制優遇の活用:適切に手続きを踏めば、空き家を売却する際に大きな税制優遇を受けられる可能性があります。具体的には、親などから相続した空き家(昭和56年5月以前に建築された旧耐震基準の住宅など一定要件あり)を解体または耐震改修してから売却する場合、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる特例があります。この特例を活用すれば、売却益にかかる税金(譲渡所得税)の負担を大幅に減らすことができます。また、土地のみを売却する場合でも、低未利用土地※の長期譲渡所得特別控除(最大200万円控除)という制度もあります。これらを利用するには、市区町村から要件該当証明を受けるなどの手続きが必要です。適用要件や期限があるため、売却前に制度の詳細を確認し、必要な手続きを進めましょう。 (※低未利用土地:一定の利用がなされていない低額な土地で、面積要件等を満たすもの。)

    以上のように、売却を選択する際は市場価格や法手続きを踏まえて準備を進めることが大切です。

    不動産会社に査定を依頼したり、税理士や司法書士に相談したりしながら、ベストな売却方法を検討しましょう。

    空き家を解体する場合のポイント

    老朽化が激しい空き家や、利用予定がない場合には「解体(取り壊し)」してしまう選択もあります。

    空き家を更地に戻すことで安全面の不安を解消できますが、解体には費用や手続き面での注意点があります。

    • 解体費用の目安:建物を解体するには当然ながら費用がかかります。その額は構造や大きさによって異なりますが、一般的な木造住宅の場合、解体費用の相場は坪あたり3~4万円程度とされています。例えば延べ床面積30坪(約100㎡)の木造家屋であれば、約100~120万円前後が目安となります。地域の業者間で価格競争もあるため、実際にはこれより安くなるケースもありますが、庭木の撤去・整地費用や廃材の処分費用が加算されると見積額が増えることもあります。鉄骨造・RC造(鉄筋コンクリート造)の建物は木造より坪単価が高く、場合によっては木造の2倍以上の費用がかかります。また、建物にアスベスト(石綿)を含む建材が使われていると、専門的な除去作業が必要なため費用が割増しになります。解体工事を依頼する際は、地元で実績のある解体業者に相見積もりを取り、内容と金額を比較検討すると良いでしょう。

    • 解体後の土地活用と維持費:建物を解体して更地にすると、その後は更地として土地を活用・管理していく必要があります。駐車場や資材置場として活用したり、将来的に売却・新築するために一旦更地で保有するケースもあるでしょう。注意したいのは、更地にすると固定資産税が増加する可能性が高いことです。住宅が建っている土地には税法上の「住宅用地特例」が適用され、固定資産税評価額が最大6分の1に軽減されています。しかし空き家でも適切な管理が行われず放置された状態だと、この特例が適用除外となり税負担が跳ね上がる場合があります。一般に建物を撤去して更地にすると住宅用地特例は受けられなくなるため、毎年の固定資産税が上がる点は織り込んでおきましょう。それでも、老朽家屋を残したままにして倒壊や放火等のリスクを抱えるよりは、更地にして管理する方が安心だと考える方も多いです。特に隣家と接する密集地では、空き家倒壊や部材飛散は近隣への損害リスクになるため、早めの除却が望まれます。

    • 自治体の補助制度の利用:老朽危険な空き家を除却する場合、自治体によっては解体費用の一部を補助してくれる制度があります。茅ヶ崎市を例にとると、昭和56年5月31日以前着工の木造住宅で市の耐震診断の結果耐震評点1.0未満と判定されたものを解体する際、工事費の1/2(上限36万円、特定道路沿道の場合45万円)を補助する制度があります。これは耐震性の低い危険な旧耐震住宅の除却を促進する目的の制度です。自治体によって要件や金額は様々ですが、他にも老朽空き家の除却費補助やブロック塀撤去費補助等が用意されていることがあります。寒川町や藤沢市でも、今後こうした除却補助の導入や検討が進められており、最新の情報は各市町村の空き家対策担当窓口に問い合わせるとよいでしょう。補助を受けるには事前申請が必要で、工事着手前に手続きを済ませなければなりません。知らずに解体して後から申請しようとしても補助金が下りないケースもあるため、制度を利用したい場合は計画段階で自治体に相談しましょう。

    • 解体工事後の届け出:建物を取り壊した後は、「滅失登記」といって建物が無くなったことを法務局に登記申請する必要があります。これは法律上の義務であり、滅失の事実(解体業者が発行する滅失証明書等)を添付して行います。滅失登記を怠ると、登記簿上は存在しないはずの建物が残ったままになり、将来その土地を売るときなどに支障が出ます。解体業者によっては代行してくれる場合もありますが、一般には所有者が土地家屋調査士などに依頼して手続きをします。忘れずに済ませておきましょう。

    以上が空き家を解体する際の主なポイントです。

    費用面の負担はあるものの、安全・安心には代えられないため、「もう使わない実家が老朽化して心配」という場合は前向きに検討してみても良いでしょう。

    自治体の補助や税制優遇を上手に使えば、費用負担を軽減することも可能です。

    司法書士がお手伝いできること

    空き家の処分にあたっては、法律や手続きに関する専門知識が求められる場面が多々あります。

    そんな時こそ司法書士の出番です。司法書士は不動産の権利に関する登記のプロフェッショナルとして、空き家問題の解決に以下のようなサポートができます。

    • 相続登記(名義変更)の手続き代理:前述のとおり、相続によって取得した不動産は早期に名義変更(相続登記)することが義務となりました。司法書士は戸籍収集から遺産分割協議書の作成サポート、そして法務局への登記申請まで一括して代行できます。司法書士に任せれば、面倒な書類集めや役所対応もスムーズに進みます。特に相続人が多いケースや、相続関係が複雑なケースでは、司法書士のサポートが円滑な手続きの鍵となるでしょう。

    • 複雑な権利関係の整理(名義整理):空き家によっては、所有者の名義が古いまま(亡くなった親や祖父母名義)になっていたり、登記簿上の住所が現住所と異なっていたりすることがあります。また、相続登記未了のまま何世代も経過し、法定相続人が膨大な数に広がってしまったケースや、共有名義で権利関係が複雑になっているケースもあります。そのままでは売却も活用も進められません。司法書士はこうした複雑化した権利関係の整理を得意としており、各相続人との連絡調整や必要書類の案内などを通じて、権利関係をシンプルに整理(名義の一本化等)するお手伝いをします。例えば、共有名義の空き家を売却する場合、事前に共有者全員の合意が必要ですが、司法書士が間に入って書類作成を進めることで円滑に合意形成ができた事例もあります。

    • 契約・登記手続き全般のサポート:空き家を第三者に売却する際は、不動産売買契約の締結と所有権移転登記が必要になります。契約書に貼付する収入印紙のこと、決済当日の流れ、買主への引き渡し条件など、不慣れな方には戸惑うことも多いでしょう。司法書士は不動産取引時の決済立会いや所有権移転登記の手続きを通じ、売主・買主双方が安心して所有権を移転できるよう支援します。不動産会社や買主の司法書士と連携し、抵当権抹消など付随する登記も含めて確実に処理します。また、建物を解体する場合でも、前述の滅失登記の申請手続きを代行(土地家屋調査士の手配)してもらえます。専門家に任せれば、煩雑な申請書類の作成から法務局でのやりとりまで一貫して対応してくれるため、時間と労力の節約になります。

    • 相談窓口としてのアドバイス提供:司法書士事務所の中には、空き家問題や相続問題に関する無料相談会を定期的に開催しているところもあります。「何から手を付けて良いかわからない」という段階でも、司法書士に相談すれば現状整理から今後の選択肢まで丁寧にアドバイスしてもらえます。藤沢市でも空き家所有者向けの相談会などが開催され人気を博しています。専門家の視点で法律・税金・手続き面の見落としがないかチェックしてもらえるため、不安を解消しながらベストな処分方法を検討できるでしょう。

    空き家の扱いには、不動産・法律・税務など様々な知識が関わってきます。一般の方が一人で全てを判断するのは難しい部分も多いですが、司法書士をはじめとする専門家を上手に活用すれば、きっと道筋が見えてきます。「このまま放置して大丈夫かな?」「売るべきか壊すべきか悩んでいる」といったお悩みがありましたら、ぜひお気軽に司法書士へご相談ください。法の専門家として、皆様の大切な財産である空き家の最善の活用・処分方法を一緒に考え、サポートさせていただきます。専門家の力を借りて、空き家問題を前向きに解決していきましょう。

    参考文献・情報ソース:茅ヶ崎市・寒川町・藤沢市の公式ホームページおよび空き家対策資料、国土交通省統計データ、空き家問題に関するニュース記事など.